令和6年6月7日(金)~9月10日(火)は「植物の不思議な世界展を開催しています。 

サボテン

 アメリカ大陸で特殊な進化をとげたサボテン。サボテンはどのようにして過酷な乾燥に耐えているのだろうか?
 サボテンは、茎の内部にスポンジ状の貯水組織を発達させている。この貯水組織に、雨が降ったときに水を貯え、乾燥がつづく間は貯蔵した水を少しずつ使って生命活動を行う。
 
 サボテンは「ベンケイソウ型有機酸代謝(CAM)」という、暑く乾燥した気候に適した光合成を行う「CAM植物」である。一般の植物は昼間に気孔を開いて光合成を行うが、CAM植物は夜間に気孔を開いて二酸化炭素を取り込みリンゴ酸にかえて細胞に貯え、昼間は気孔を閉じてリンゴ酸を分解することで二酸化炭素を発生させて炭水化物をつくる。CAM植物は、光合成の効率は低く成長は遅いが、水のロスは最小限に抑えられて乾燥に強い。



スミレ

 
初夏、花を終えたスミレに、また小さなつぼみが出ることがある。このつぼみの正体は、花びらが退化した「閉鎖花」である。
 つかの間の春に咲き、虫に花粉を運んでもらわねばならない開放花は、結実率も低い。対照的に、閉鎖花は秋遅くまで次々につくられ、確実に大量の種子をつくり出す。

 閉鎖花は経済的にも安上がりである。虫を誘うための美しい花びらや甘い蜜も、閉鎖花にはつくる必要がないからだ。閉鎖花は、確実に子孫を残すべく植物たちが編み出した、巧みな裏技なのである。


トマト

紫外線は人間だけではなく、植物にも害がある。紫外線は活性酸素を発生させる。活性酸素は、きわめて有毒である。

 植物たちも、自然の中で、活性酸素に悩み闘っている。植物は葉の表面で、紫外線を反射、散乱させる。また、葉の表側の細胞に、紫外線を吸収する物質を含んでいる。それでも、紫外線は、植物の細胞の中に入り込む。そして、恐ろしい活性酸素をつくり出す。だから、植物たちのからだには、活性酸素を消去するしくみがある。
トマトの赤い色素であるリコペンは抗酸化物質である。リコペンはスイカなどにも含まれている。

 結局、葉や花や実の色となる物質が、活性酸素を消去する働きをもつのだ。だから、強い紫外線が当たると、活性酸素から身を守るために、植物はこれらの物質を多くつくる。その結果、葉や花や実は、きれいな色になる。

ランタナ

 クマツヅラ科ランタナ属の常緑小低木。ランタナの花の色は時間とともに極端に変わる。これらの花では、花色を構成する複数の色素が時間差をもって合成されてくるので、花の色が変化する。同時にさまざまな色が混じる花の集団は虫の目を惹くに違いない。ランタナの花は蜜を出している時期は黄色で、蕾の時と受粉した後は紅色である。
 花色の変化は、虫に花の熟度を知らせるサインにもなる。チョウやガは蜜の多い黄色い花を選んで訪れる。ほとんど間違えることは無い。つまりチョウやガは花の色を学習して食糧を効率的に集め、花は虫に未受粉の花を集中的に巡回させる。一種の相利関係が成立しているわけだ。

着生ラン(ソフロニチス・セルニュア)

 ラン科ソフロニチス属。大地に根を張らずに、木の幹などにくっついて生きている植物もいる。こうした植物を「着生(ちゃくせい)植物」と呼んでいる。寄生植物と間違えられることもあるが、くっついている植物から栄養を吸収しているわけではないので、全く異なるものである。

 着生の生活における問題点の一つが、水である。通常の植物は、地中に根を下ろして、そこから水を吸い上げる訳だが、着生植物はそれができない。普通、水の補給は雨水と霧に頼る。一般に、降雨量が多いところに着生植物は多い。また、頻繁に霧がかかる森林では、着生植物が多くなる。樹上に一面にコケが繁茂する森を蘚苔林とよぶが、これも着生植物が多い森である。そのような森林は、霧が発生しやすいとか、常に雲がかかっている場所であることが多い。いわゆる雲霧林である。着生植物の場合の水の摂取法はどうなっているのか。その多くは、葉から水を取り入れているのである。つまり幹上に生きる着生植物は、空気中のミスト(霧)を利用しているのである。
 これらの植物の生育地を調べてみると、一日の気温の温度差が大きな地域であるという共通点がある。気温が急に下がることによって、ミストが発生する。そういうミストに由来する水を葉の表面から取り入れて活用している。濃霧がかかるような状態のとき、葉の表面も結露する。それを取り入れているのである。